オオカミと少女
「だ、大丈夫だ。ナターシャ、僕の後ろにいるんだ…」
「ウ、ウアァァァァア…アア……」
大きなオオカミは顔を歪めると俯き、苦しそうに息を吐いた。
「ナターシャ、今だ!奥の窓から外に逃げろ!」
ナターシャはサイオの声を聞いてすぐに走り出した。
「グァァアア!!」
ナターシャは窓枠に手をついて外に出てから、サイオがいないことに気がついた。
「兄さん!?」
さっきナターシャがつけた暖炉の火はいつの間にか消えていた。
そのとき、その暖炉の近くで、1人の影がバタッと床に倒れたのが目に入った。
「兄さん!」
その影の近くを、大きな黒い影が何度か行き来するとすっと顔を上げた。
ナターシャは、その影に浮かぶ赤い2つの光を見て動けなくなった。
「に、兄さん…やだ、早く来て。お願い。早く……」
オオカミはその赤い目でじっとナターシャを見ていたが、しばらくして何もせずに玄関から外に出て行った。