オオカミと少女
ナターシャはまた窓から家の中に入った。
1度外に出たことで頭からずぶ濡れになっていたことも忘れてサイオに走り寄る。
「兄さん、兄さんしっかりして!」
サイオは目を閉じ、もう息をしていなかった。
その上着はオオカミにやられたのかひっかかれたように裂けているが、身体自体に傷はない。
しかしサイオは自分の左胸に拳をあてて倒れていた。
ナターシャから見ても、サイオが心臓の発作で倒れたのは分かる。
「兄さん、ねえ!
薬、あるから!それ飲んで!」
ナターシャが揺すっても、軽く頬を叩いても、サイオは目を覚まさなかった。
「なん、で…?
盛大にお祝いしてくれるって言ったじゃない…」
ナターシャの目から涙が溢れた。
「兄さぁん……!1人にしないでぇ…」
その泣き声は誰にも届かず、森の中に消えて行った。