この気持ちに名前をつけるなら
でも坂下は私の顔を見ようとせず、あくまでもお客さんとして接していたので少し安心する。
店員とお客さん。
なるほど。
この距離感か。
よく来るって言ってたし、この感覚を覚えておこう。
「ありがとうございます。またお越しください」
お金を受け取り、私は店員らしく営業スマイルを作った。
すると、
「……もう来ないよ」
……え?
ボソ、っと耳に入ってきた低い声。
びっくりして一瞬フリーズしていると、坂下は何事もなかったように店を出ていってしまった。
カラン、と鳴ったドアベルの響きに、余韻を残して。
もう来ないって。
あれ、多分私に言ったんだよね。
私が何かしたのかな。
やっぱり来たときに馴れ馴れしく声を掛けたのが悪かったのだろうか。
そういえは、坂下って呼び捨てにしたから?
そうだよね、私は知ってても向こうは知らないわけだし。
気分悪くしちゃったかな。
もしかしたら華澄さんとの会話が聞こえたとか。
「あ、一子ちゃん、」
「……はい」
「わ、どうしたの?」
「……いえ……なんでも……」