この気持ちに名前をつけるなら
「ちょっと待っててね」
「おう」
私は急いで店に戻った。
黒いシンプルなエプロンを外し、結んでいた髪をほどく。
制服に着替えて、マスターと華澄さん、利也さんに挨拶をする。
時計を見ると、もう8時を回っていた。
途中、休憩もあったけど、昼過ぎからだから、丸8時間も店に居たことになる。
楽しかったからあっという間だった。
明日からも楽しみだなー。
「お待たせ。待たせてごめんね。そこでジュース奢るよ」
「お、やり」
自転車を引いて近くの自動販売機に向かい、お金をいれ、私もジュースを選ぶために自動販売機を見上げた。
すると、すぐ隣にアパートがあって、ふと一人暮らしだという坂下を思い出した。
「……、」
そういえば、坂下が出てってすぐだったけど、光太は坂下出てくの見たのかな。
「どうした?」
自動販売機を見上げたまま考え込む私を不思議に思ったのか、光太が私の顔の前に手をヒラヒラとかざす。
「ねぇ光太。坂下 保ってわかる?」
「……坂下?」
「うん。今日から同じクラスになったんだけど」
「……ああ、うん。何となく」
それがどうした?と首を傾ける光太。
反応を見る限り坂下とは認識しなかったようだ。