この気持ちに名前をつけるなら


「ちょっと待っててね」

「おう」



私は急いで店に戻った。

黒いシンプルなエプロンを外し、結んでいた髪をほどく。

制服に着替えて、マスターと華澄さん、利也さんに挨拶をする。

時計を見ると、もう8時を回っていた。

途中、休憩もあったけど、昼過ぎからだから、丸8時間も店に居たことになる。

楽しかったからあっという間だった。

明日からも楽しみだなー。






「お待たせ。待たせてごめんね。そこでジュース奢るよ」

「お、やり」



自転車を引いて近くの自動販売機に向かい、お金をいれ、私もジュースを選ぶために自動販売機を見上げた。

すると、すぐ隣にアパートがあって、ふと一人暮らしだという坂下を思い出した。



「……、」



そういえば、坂下が出てってすぐだったけど、光太は坂下出てくの見たのかな。



「どうした?」



自動販売機を見上げたまま考え込む私を不思議に思ったのか、光太が私の顔の前に手をヒラヒラとかざす。



「ねぇ光太。坂下 保ってわかる?」

「……坂下?」

「うん。今日から同じクラスになったんだけど」

「……ああ、うん。何となく」



それがどうした?と首を傾ける光太。

反応を見る限り坂下とは認識しなかったようだ。


< 13 / 104 >

この作品をシェア

pagetop