この気持ちに名前をつけるなら
『もう来ないよ』
坂下の言葉が頭の中に響く。
うーん。
やっぱ、あんまり言わない方がいいよね。
「一子?」
「なんでもない」
「?」
私は溜め息を吐いてオレンジジュースのボタンを押した。
出てきたペットボトルの蓋を空け、渇いた喉を潤す。
疲れた身体に甘いものが染み渡る。
「さて、帰ろうか」
「おう」
光太は何か言いた気だったけど、それ以上突っ込まれても私も何も言えないし、私は気付かない振りをした。
光太も、何も言わない。
こういうところ、光太は昔から本当に優しい。
「光太、ありがとうね」
「何が?」
きっと、今日も私の終わる時間に合わせて学校を出てくれたんだろう。
コンビニのバイトのときも、私が終わる時間に買い物に来てくれたりしてた。
申し訳なくて、ごめんね、って言ったときも、光太は何のこと?ととぼけていることが多かったけど、一度だけ、「そういうときは謝らないで、ありがとうって言え」って言われた。
色んなものに押し潰されそうになっていたときの私には、その言葉はストンと納得できた。
「全部!」
私は自転車に跨がり、ペダルを漕いだ。