この気持ちに名前をつけるなら
act2
「坂下、くん」
次の日のお昼休み、私は怪しむさおりと光太を振り切り、教室を出る坂下を追いかけた。
坂下が向かったのは人気のない屋上だった。
屋上って入れたんだ……。
私の声に特に驚くこともなく、持っていたパンの袋を開く。
「何?」
「あの、昨日のことだけど……」
「……、」
フェンスのところに座っていた坂下は、視線を上げて立っている私の顔を見上げる。
ちゃんと向き合って顔を見たのはこのときが初めてだった。
明るい色の天パの髪の奥に整った眉、その下につり上がった目。
少し冷たそうな印象で、一瞬ドキリとした。
「あのね、『メロウ』にもう来ないって、私のせいかな」
「え?」
「何か悪いことしたならちゃんと謝りたいって思って。声掛けたのがダメだったら、もう声掛けないよ。
私、昨日から働き始めたばかりで、なのに、私のせいでお客さんが一人減っちゃうのは、なんか申し訳ないし」
「別に……えーと、野上だっけ。あんたのせいじゃないよ」
「え、」
そう言って、坂下は溜め息を吐いてパンをかじる。
「……、」
「……、」
「あの、」
「だから、野上のせいじゃないから、気にしなくてもいいって。またお越しくださいって言ったから、もう来ないよって言っただけ」