この気持ちに名前をつけるなら
……確かに。
さおりも来るようになるし。
「……それに、俺の方が謝るべきだった。あそこの店、結構気に入ってて。それで、もう行きにくくなるって思ったらちょっと八つ当たりしただけだから。お前に謝られたら、こっちの立場ない」
坂下は、そういって眉を下げて苦笑した。
「だから、辞めるなんて言わなくていいから」
あ。
目付きはあまりよくないけど、案外怖い奴ではないのかな。
男子特有の、ちょっと不器用ってやつか。
私の周りの男といえば、光太と、弟の剣二と孝四朗くらいだから、どうもこういう男の扱いはわからない。
私は、光太の助言通り、「ありがとう」と言って隣にしゃがみ込んで坂下と目線を合わせた。
「ねぇ、『メロウ』が好きならまた来てよ。私、話し掛けたりしないから」
「ヤだよ。なんで」
「だって、気に入ってたんでしょ?」
「……まぁ、」
「じゃあおいでよ」
「……気が向いたらな」
「うん。私、水曜日は休みたいだから」
「水曜日は定休日だよ」
「あ、なるほど」
言われてハッと気付く。
「あ、じゃあ、休みの日教えるね」
せっかく『メロウ』を気に入ってくれてたのに、来れなくなるのも、来てもらえないのもすごく残念に思えて、私は必死だった。