この気持ちに名前をつけるなら
「だいぶ仲良くもなったことだし、俺たちが就活本番に入る前に、一緒に遊ばない?」
「え?」
どうしよう。
せっかく誘ってくれてるけど、遊ぶ時間もお金もない。
さおりの誘いも断っている。
さおりのことだからすごく怒りそう。
「あの、私、あんまり時間とかなくて。」
「いつでもいいよ。バイト終わったあととかでもいいし、店の定休日でもいいし」
「はぁ」
「とりあえず、ケータイ番号教えて」
「あ、今は持って……」
ない。
そう言おうとしたときだった。
「ナンパ?」
スタスタと店に歩いてきたのは、坂下 保だった。
「はぁ?」
「坂下!」
お客さんが不機嫌そうな声を出したのと私が名前を呼んだのは、ほぼ同時だった。
お客さんは坂下と私を見比べる。
「あ、違うよ!ただのお客さんで……、」
坂下が来てくれたことに驚いて『ただの』お客さんと言ってしまったことにすぐに気付いて、はっと口を抑える。
そして、また坂下に声を掛けてしまったことにも後悔する。
もうダメダメじゃーん!
しかし坂下はそのことには気にした様子も見せず、そのまま店の前まできた。