この気持ちに名前をつけるなら
「仕事、いいわけ?」
坂下は私の顔は見ず、そう言い残して店の中に入っていった。
「あ!」
お客さんに深々と頭を下げ、私も坂下の後を追って店の中に入った。
「一子ちゃん!」
店に入ると、利也さんが慌てて私に寄ってきた。
「ごめん、厨房にいて気付かなかった。あの大学生たちに何か言われてなかった?」
「遊びに行こうって言われたけど、すみません。お断りしてしまいました」
私は申し訳なく利也さんに頭を下げると、利也さんは私の両腕を掴みながら、はぁぁっと脱力するように項垂れた。
「一子ちゃん。そういう誘いは聞かなくていいからね。ついでに、ああいうお客さんの時は注文も料理出すときも俺が対応する。いいね」
「……私、やっぱり駄目でしたか?」
利也さんが叱るように言ったから、私は一気に不安に駆られる。
「駄目なのはあの大学生だよ。一子ちゃんは何も悪くない」
利也さんは私と視線を合わせるように屈むと、息をついて私の頭を撫でてくれた。
「怖くなかった?」
言われて、首を横に振る。
怖くはなかった。
けど、利也さんをこんなに心配させてしまったことに後悔をした。