この気持ちに名前をつけるなら
あのとき坂下が声を掛けてくれなかったら、断り切れただろうか。
もっと心配させることになってしまったかもしれない。
「利也さん」
「うん?」
「今度から気を付けます」
「うん」
利也さんは今度はにっこり笑って、また、私の頭を撫でてくれた。
坂下は奥のテーブルに座っていた。
教室にいるときと同じように、本を読んでいる。
お礼くらいは、言ってもいいよね?
私は坂下のテーブルに向かった。
「あの、さっきは、ありがとう」
私の声に、坂下は特に顔を上げることはなかった。
「シーフードカレー」
「あ、はい」
何事もなかったように注文だけを済ませる。
「あと、来てくれてありがとう」
これだけは、どうしても伝えたかった。
すごく嬉しかったから。
すると坂下は息を吐いて、ゆっくりと私を見た。
天パの髪から覗く視線と目が合う。
「友達と店の人が野上の心配するの、なんかわかるな」
「え?」
「……、」
坂下はまた本に目を落とした。
どうしようかと思いつつ、少しの間のあと、テーブルを離れたとき。