この気持ちに名前をつけるなら


「あのさぁ、」



坂下の声を背中で受けて、振り返る。

坂下は首の後ろを掻いて、少し言葉を選ぶように首を捻る。



「ごめん、少し話していいかな」



はぁ、と息を吐き出した坂下に、私は黙って頷く。



「野上は悪くないんだ。全部、原因は俺にあるんだけど」

「そんな、」



反論しようとすると、坂下が右手を前に出してそれを制する。



「さっき、野上が絡まれてるのが見えなかったら、多分俺はここには来なかった」



一言一言確認するように、坂下がゆっくりと話をする。



「それは、野上が悪いんじゃない。俺が一方的に野上を裏切ってただけだから」

「でも、裏切りたかったわけじゃないんだよね。あのときは、また来たいって思ったんだよね」

「どう思ったって結果的には一緒だよ」

「違うよ」

「傷付いた事実も、傷付けた事実も変わらない」

「違う!」



思わず、大きな声が出た。



「傷付いたのも傷付けたのもそのときは事実だとしても、傷付けたかったわけじゃなかったら、そのあとの未来は全然違うよ!」



声に驚いたのか、坂下の表情が変わる。

私自身も自分の声に驚いて、ごめん、と謝った。

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