この気持ちに名前をつけるなら
「……同じだよ」
今度は静かにそう言うと、坂下は目を伏せるように俯いた。
「あれから野上の視線が痛くて、正直困った」
うっ。
見ないようにしていたつもりだったけど、やっぱり気付かれていたらしい。
いや、だって。
気にはなっていたわけで。
坂下が言うように傷付いたわけでも、裏切られたと思ったなかったけど、確かに気にはなっていた。
「……ごめん」
私は肩をがっくりと落としてもう一度謝ると、坂下は今度はクスクスと笑っていた。
「ううん。こっちこそ、ありがとう」
「え、」
「……また、ここに、来れるようになったし」
「……あ、うん。こっちこそ」
坂下は、「助かった」と言って笑った。
明るい天パの奥から覗く幼い笑顔。
でもその奥で、まだ何かありそうな、そんな気がした。
憶えがある。
そうだ、昔の自分を見ているみたいな感じがする。
そうか。
だから気になるんだ。
「店の人」
坂下は私の後ろを指差した。
「心配そうに見てるけど。行った方がいいんじゃない?」
「あ!」
振り返ると、利也さんがカウンターの陰からこちらを見ていた。
仕事中だった。
利也さんに心配させないようにしようって誓ったばかりだったのに。
なんか今日は本当にダメダメだ。