この気持ちに名前をつけるなら
act5
さおりのお陰で、坂下とは学校でも話をするようになった。
坂下は教室では相変わらず本を読んでいて、それに構わず遠慮なく話掛けていくさおり。
坂下は面倒そうにあしらうけどさおりには一切通用しなくて、そのうち諦めたようだ。
坂下をフォローするつもりで、結局は私も坂下とは話をするようになった。
そんな彼が、GW明け、また『メロウ』に来なくなった。
かれこれ一週間。
たった一週間。
でも、私には気になることがあった。
最近、顔色が良くなかった気がするのだ。
いつも静かだからわかりづらいけど、もしかしたら体調が悪いのかもしれない。
『メロウ』に来ないのは食欲がないからじゃないだろうか。
そしてとうとう、週末に坂下は学校を休んだ。
私は鍋の中の大根と鶏肉の煮物を眺めながら、坂下の食生活を想う。
明日は土曜日だから、これは弟妹のお昼ご飯と晩ご飯。
お母さんは事務職とスーパーのパートを掛け持ちしていてなかなか家にはいない。
たまにご飯を作ってくれるけど、働き詰めのお母さんには休んで欲しいのと、まだ甘えたい盛りの一番下の弟と少しでも一緒の時間を過ごせるように、ご飯は子供たちだけでなんとかすると姉弟妹会議で決まったのは随分前の話。