この気持ちに名前をつけるなら
メインのオカズだけは私が作り置しておくことが多いけど、ご飯を炊いたり、お味噌汁を作るのは中学3年の弟の剣二と、中学1年の妹の三久(みく)が自分達でどうにかしているからだいぶ助かる。
今日も大根と鶏肉の煮物と、キュウリの漬物、食べ盛りの剣二のために月に一度の唐揚げの仕込みをしておく。
明日は土曜日か。
……坂下、煮物食べるかな。
ふと、そう思った。
次の日、私はタッパーに煮物を入れ、バイトの時間のだいぶ前に家を出た。
『メロウ』の近くのアパート。
いつも坂下が来る方向にアパートはここしかない。
華澄さんも、ここの二階から出てくるのを見たことがあると言っていた。
郵便受けの名前を一応確認して、部屋のベルを鳴らした。
『はい』
坂下の声。
いつも声のトーンは低いから、寝起きなのかいつも通りなのか、マイク越しだと判断がつかない。
「あ、坂下。ごめんね。野上だけど。あの、お見舞いにきたんだけど」
『は?』
「最近体調悪そうだったし、『メロウ』にも来ないから、大丈夫かと思って」
『……、』
坂下は少し黙って、インターホンがブツリと切れた。