この気持ちに名前をつけるなら
坂下は物凄く慌てた様子で、いつもとのギャップに私はなんだか笑ってしまった。
タッパーひとつにこんなに大騒ぎになるということは、本当に普段から台所には立たないんだろう。
身体が一回り小さくなったように感じる。
「煮物、食べられた?」
タッパーひとつに落ち込む坂下があまりにも可哀想で、私は話題を変えた。
「あ、先にお礼言うべきだったよね。すごい美味しかった。ありがとう」
「よかった」
私が笑うと坂下も少し落ち着いたようで、苦笑した。
「俺、どうしようかと思って、引っ張ってきちゃってごめん」
「それはいいけど……」
部屋を見渡すと、なんかこざっぱりした感じだった。
雑誌とか服とかは落ちてるけど、物自体が少ないからか汚れている感じではない。
そして台所は、しばらく使っていないようで、ゴミ箱にはコンビニの弁当の空が捨ててあった。
「坂下って、本当に料理しないの?」
「え、うん。しないっていうか、できない」
「普段何食べてるの?」
「え、『メロウ』とか、惣菜とか……」
「カップラーメンとかレトルトとか?」
「いや、そういうのは好きじゃないから。一応非常食として買ってはあるけど」