この気持ちに名前をつけるなら


「……笑うなよ」

「えー?笑ってないよ」

「笑ってた」

「ふふふ、」



拗ねるように顔を赤くした坂下の意外な一面は、本当に可愛いと思ってしまった。

剣二や光太とは全然違うもんなぁ。

いつもは坂下の方が大人びて見えるのに、今は坂下の方が子供みたい。

なんだか親近感が湧いてくる。



「ねぇ、坂下」

「うん?」

「まず、今日はキムチ鍋はしっかり全部食べること」



私が人差し指を立てて言うと、坂下の背筋が伸びた。



「……はい」

「で、洗い物もする」



今度は顔を歪める。

洗い物が嫌いらしい。



「で、明日は、ちゃんと自分でハンバーグを焼いてみて」

「……、」



ニコっと笑うと、坂下も片眉だけ寄せて、笑った。



「……はい」

「きっと自分で作った方が美味しいよ」

「……うん」



私は今度こそ鞄を拾って玄関に向かった。

後ろから坂下が着いてきてくれる。



「明日もバイトの帰りに寄るね」

「……いや、来なくていいから」



玄関で、坂下が溜め息をつく。

一人でもできるってことだろうか。

多分、タッパーの時みたいになっちゃう気がするけど。

まぁ、坂下の自尊心を大事にしよう。


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