この気持ちに名前をつけるなら
「あ、坂下。おはよ」
玄関で坂下を見つけて、私は声を掛けた。
よかった。
体調が戻ったんだ。
顔色も悪くない。
「おはよ」
上靴を履いて、坂下は穏やかに笑う。
その笑顔を見て、私は坂下との距離が縮まった手応えを感じて、なんだか嬉しくなった。
お見舞いに行ってよかった。
「野上、鍋、めちゃくちゃ旨かった。ホント、ありがとう」
「え、あ、ううん。具材入れて煮込むだけだから、別に大したことしてないよ」
「俺はそれすらできないから。ハンバーグも結局真っ黒でボロボロになっちゃったし、味噌汁のワカメもオバケみたいになった」
私は台所でテンパる坂下が安易に想像できて、思わず笑ってしまった。
すると坂下は肩を竦めて眉を下げると、先に教室に向かっていった。
「何の話?」
その会話を聞いていた光太が不思議そうに聞いてきて、私は土曜日にあったことを光太に話す。
「……ふーん」
「まぁ、成り行きっていうか、なんか放っておけなくて」
光太が唇を尖らせて拗ねたように言うから、言い訳のような言葉が出てしまった。
すると、光太は私の頭を乱暴に撫でてきて、「一子らしいな」
と苦笑を溢した。