この気持ちに名前をつけるなら
私は俯くようにカップに視線を向けると、さおりが溜め息をつく。
「まぁ、急がなくてもいいけどさ」
「……、」
「でも、いつまでも、今のままの関係っていうわけにはいかないと思うよ」
さおりは苦笑していた。
私と光太は、物心ついたときから一緒に遊んでいた。
犬に襲われたときも、泣きながら追い払ってくれたこともあった。
宿題も一緒にした。
キャンプにも一緒に行った。
お父さんが居なくなったときも、何も言わずにずっと傍にいてくれた。
この関係が、壊れるときがくるんだろうか。
思わずゾッとした。
「一子?」
さおりの声。
「ごめん、一子、大丈夫?」
「……、」
さおりは椅子から立ち上がって、私の背中を撫でる。
「……私、わかんない」
「うん、ごめんね」
「変わるなんて、考えられない……」
「……、」
変わらないと当たり前のように流れた日常が、音を立てて崩れていく。
身体が震えた。
「一子、」
「……ごめん、さおり」
「ううん、私こそ、ごめんね」
さおりの手が、子守唄を歌うようで、少しホッとする。