この気持ちに名前をつけるなら
光太が投げたお茶を受けとると、坂下は光太の前に座ってお菓子の袋を空けた。
「あいつさ、」
「野上?」
「うん。生活全部、家族中心なんだ。自分のことは全部後回しで」
「そうみたいだな」
「一番下の弟は小3だけどすぐ下二人はもう中学生だし。ウチ家近いからメシだって持ってったりもしてるから、一子があんな頑張らなくても本当は大丈夫なんだ」
カサリ、と空けたチョコレートの袋がやたらと大きく部屋に響いた。
「野上自身の存在意義ってやつ」
言って、坂下はチョコレートを口に放り込んだ。
「そうじゃないと、一子は立ってられない気がして」
「それが過保護っていうんじゃないの」
坂下に言われて、光太は苦笑を溢す。
「はは、だな」
「重症」
光太もチョコレートを手に取った。
「一子には、どうしても幸せになってほしい」
チョコレートを食べると、口の中でゆっくりと溶けて、ジワジワと甘い味が口の中に広がる。
こんな風にジワジワと一子が幸せで満たされることを、光太は切に願った。
今までの寂しさも、辛さも、全部、甘い幸せに包まれて忘れてほしい。