この気持ちに名前をつけるなら
act9
「危ない」
グイっと腕を引っ張られた。
「割るぞ」
並ばれた硝子細工を指して、坂下が腕を引っ張ってくれていた。
小樽の硝子工房。
修学旅行生で店内は人が溢れていた。
色とりどりの商品はどれも繊細で、勿論ぶつかって落ちてしまえば割れるガラスでできている。
割れると勿論怪我をしかねない。
皆かわいい硝子細工に夢中で、確かにいつ誰がぶつかってもおかしくはない。
現にさおりも小さな動物の置物にテンションMAX。
後ろにいた女子グループがお喋りをしながら商品に手を伸ばしていた。
「あ、ありがとう」
「野上って、しっかりしてそうなのに意外とそうでもないよな」
「返す言葉もございません……」
剣二や学校の先生にもよく言われる。
光太には、しっかりしなきゃと思ってると言われたことがある。
その言葉が一番的を射てると思った。
「高槻に買うの?」
キリンとパンダ、ウサギ、イルカ、カニの置物を手に取っていると、坂下が覗き込んできた。
「うん。『メロウ』のマスターと、利也さんと華澄さんも。あと、ここで家族の分も買おうかなーって」