この気持ちに名前をつけるなら
「あ、坂下、」
車から降りて、私は用意していた二千円を渡そうとすると、坂下はキョトンとした顔をした。
「別に要らないけどそんなの」
「でも……」
「じゃあ、ハンバーグのお礼ってことで」
坂下はサラリを言って、運河の方に歩き始めた。
さおりはあっけらかんと「やったねー」と喜んでいたけど、私は手の中の行き場を失ったお金に戸惑ってしまった。
申し訳ない気持ちが沸き上がる。
『そういうときは、ありがとうって言え』
光太の手の温もりを、ふと思い出した。
『甘え下手なのは悪いことじゃないけど、俺にまで遠慮されるとそれはそれで一線置かれたみたいだから』
不貞腐れた光太の横顔。
一線──。
『一子は辛い想いをした分、もっと幸せになっていいって、俺は思う。
その手助けをするのはそんなに駄目なことか?
ごめんって言われたら、俺、なんにもできない』
そうだ。
申し訳ないって思っちゃ駄目なんだ。
素直なさおりを羨ましいと思ったこともあった。
私をいつも支えてくれる光太のようになりたいって思ったこともあった。