この気持ちに名前をつけるなら

カラン、とドアベルが鳴って、既に条件反射で「いらっしゃいませー」と声を掛け、寄っていく。



「坂下?」



お客さんの顔を見て、私は彼の名前を呼んだ。




「?」



怪訝そうにチラリと私を見る。



「あ、私、野上。同じクラスになったばっかりだからまだわかんないか」



そう。

彼は今日、同じクラスになったばかりの坂下 保(さかした たもつ)だった。

表情からして、私のことは認識していないらしい。


坂下は、昨年の夏休み明けに転校してきた。

別のクラスだったけど、高校で転校なんて大変だなーと思った記憶がある。

男子とも女子とも皆で遊ぶタイプではなく、なんか、いつも一人でいるようなイメージ。

目立つタイプではないけど、一人でいるのがたまに目に入る。

そんな人だ。



私が認識しているからといって、相手が認識してるとは限らないもんね。

私は差し障りのない挨拶を済ませ、他のお客さんと同じように注文を取った。


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