この気持ちに名前をつけるなら
act10
修学旅行の最終日。
私たちは函館に来ていた。
「北海道はさすがに広いねっ」
バスから降りたさおりが腕を伸ばして身体を解した。
小樽から函館までバスで六時間。
このまま班で自由研修をして、一泊してから帰るのみ。
いざ最終日となるとあっという間だった。
充実した修学旅行。
小樽では光太と回れなかったから、函館は四人でちゃんと楽しもう。
そう思っていたはずだった。
朝、ホテルを出るときも光太は他の男子と喋っていた。
バスの中では席が離れているから仕方ないとして、函館に着いた後も、やっぱり光太と目が合うことはなかった。
「……光太?」
「え?あ、」
一瞬、合った目をふいっと反らされた。
「……、」
光太は何故かソワソワと落ち着かない様子。
「何?」
「なんでもない、けど」
なんだろう。
どうしたんだろう。
「何あれ」
さおりも不思議そうに言った。
何かおかしい。
ザワザワと足元から影が迫り来る──。
「いじめすぎたかな……」
ポツリと呟いた声が耳に届いて、顔を上げると、そこには坂下が立っていて、また他の友達と喋りに行った光太の背中を眺めていた。