血の記憶
「……奈央から手、離せよ」
翔真の口からでた声はいつもと違って低く、その目は鋭くこちらを睨みつけている。
私に向けてじゃないと分かっていても、その迫力に圧されて思わず息を呑んだ。
「な、なんだよお前らっ」
そう叫んだ男の声は情けなく震えていて、さっきまであんなに怖い存在だったのに今は小さく見えた。
「いいから消えろって言ってんだろ。それとも……」
「ひっ……」
言うなり足を踏みだした翔真に男は小さく悲鳴をあげ走って逃げていった。
「逃げて行っちゃった、翔真びびらせすぎだよ」
「奈央ちゃん、大丈夫?」
香奈と裕樹が次々に口を開く。
それに頷いて見せると二人は安心したような笑顔を浮かべた。
でもその中で翔真だけが男が走っていった方を見ている。