血の記憶
「―――そっか分かった。ごめん、突然押しかけて」
椅子から立ち上がった高橋くんの顔を見ることができず俯いたまま首を横に振る。
高橋くんが帰った後、自分の部屋に戻ってベッドにダイブした。
妙に泣きたくなったけどこらえた。
私には泣く資格がないように感じたから。
ふと思い出して部屋の中を見渡すとすぐにそれは見つかった。
床の上、忘れ去られたようにそこに置かれていた携帯を手に取る。
電源をつけると画面には不在着信3の文字。
着信3回のうち1回は亮くんで目をそらすように下へとたどる。
たどった先にあった名前は高橋くんだった。
二回連続で並んだ名前に堪えることができず涙がこぼれた。
残されていたメッセージを再生すると「どうしたの?」「なにかあった?」と心配する優しい声。
「…っほんとは大丈夫なんかじゃ」
誰とも繋がっていない携帯に呟いたそれは私の本音だった。