血の記憶
別れの日
「亮、話があるの」
朝、顔をあわすなりそう言った私に亮が怪訝な表情を浮かべた。
当たり前だ、私は今まで一度だって亮の名前を呼び捨てにしたことがないのだから。
しかしそれも一瞬、次の瞬間には嬉しそうな笑顔に変わった。
「どうしたの、奈央が俺の名前を呼んでくれるなんて嬉しいな。
それで話って?もしかして初デートはどこにするかとかそういうの?」
狂ってる
学校の廊下、賑やかなその場所で亮の声だけが粘つくようにまとわりつく。
目の前の薄気味悪い人間から少しでも遠ざかりたくて思わず一歩退いた。
―――あれだけ暴力を散々ふるっておいてまだそんなことを。
亮はただの一度も私が嫌うはずがないと思っているのだ。