血の記憶






「…違う、大切な話があって」「ふーん、どういう話?」


「別れて欲しい」



周囲がざわついた。


これは私の作戦だった、二人きりでこんなことを言うと絶対ただではすまない。


でも周囲の目がある今なら亮だって暴力は振るわないだろうから。


一瞬怒りからか顔を赤らめた亮にさらに一歩、後退る。


しばらくの沈黙のあと、彼が口にしたのは驚きの言葉だった。



「―――分かった、いいよ。今までごめん」


「え?」



あまりの引き際の良さに私は戸惑いを隠せなかった。


こんなに簡単に解放されるの?


呆けている私に亮は悲しそうな微笑みを浮かべた。



「なに驚いてんの、奈央が言ったんでしょ?」



だって、こんなにあっさり別れてくれるなんて思ってもいなかった。


だったらもっと早く言えば良かった。



「あ、でも奈央この前家に来たとき忘れ物してたよ。それは取りに来てもらわないと」





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