君が嫌いで…好きでした

千菜「…雨……」


お風呂上がりに窓を開けて外を見ると、いつも見えていた綺麗な星空は厚い雲に覆われていて雨独特の匂いと湿った空気が漂っていた


雨を見てると伊藤先生のお葬式を思い出す
あの時の絶望も奏叶が救ってくれた
奏叶の事を考えると奏叶に会いたくなる

なんて思ってたらケータイがなった
奏叶からの着信だった


まるで私の思いが届いたような感覚
奏叶はエスパーなのかな…


千菜「はい…」


奏叶「あ、千菜…起きてた?」



時計を見るともう午前0時…
私にしてはこの時間に来ているのは珍しかった



千菜「うん…どうしたの?」



だけど奏叶は無言だった



千菜「奏叶…?」



奏叶「…あ、ごめん…ボーッとしてた」



ボーッとしてた…?
今までそんな事なかった。奏叶にしては珍しい


千菜「何かあったの…?」


また無言…どうしたんだろう…
ちょっと心配になる



奏叶「…ごめん千菜…ちょっと変な夢見てさ…」



千菜「夢…?」



奏叶「千菜が居ない夢…死んだとかじゃ無いんだけどちょっと心配になってさ
でも千菜の声聞いたら安心した」



私が居ない夢…
こんな事言う奏叶は初めて…



千菜「…奏叶」



奏叶「ん?」



千菜「会いたい…」



真夜中…しかも雨が降っているのに素直にその言葉が出た


奏叶「…俺も」


以心伝心って本当にあるのかもしれない
おんなじ気持ちだったんだと、それだけで嬉しかった


アパートの前で傘をさして待ってると奏叶が来てくれた



奏叶「千菜!中で待っててくれれば良かったのに」


千菜「外で待ってたい気分だったから」


奏叶「ごめん。実はすぐ家戻らなきゃでさ…10分くらいしか一緒に入れないけど…」


千菜「…それでもいい」


一緒の時間を過ごせる
話すことが出来る
会える距離にいる

それが凄い奇跡のように感じる
何を話す訳でもない
2つならんだ傘の下でただ手を繋いでいるだけ
それだけでもかけがえのない時間だと思った
でも10分なんてあっという間



奏叶「ごめん、そろそろ戻らないと…」


知ってるよ



千菜「奏叶目、つぶって」


意外にあっさり目をつぶった奏叶
あの時の寝顔みたい


そしてそっと私からキスをした



奏叶「千菜…っ…今…!?」



千菜「…この間のお返し。お休み奏叶」



自分からキスをした恥ずかしさもあって私は先にアパートに入った


今さらになって恥ずかしい
よく自分からキスなんて出来たもんだ
明日どんな顔で奏叶に会えばいいんだろう…


そんな事を思いながら眠りについた


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