君が嫌いで…好きでした
初めて私の気持ちを分かってくれた
溢れだしそうな涙をぐっとこらえた
ここで泣いちゃ駄目
例え七瀬奏叶に図星をつかれたとしても涙を見せちゃ駄目
弱音をはいちゃ駄目…
七瀬奏叶に心を許して…また今までのように怖い思いはしたくない
奏叶「…千菜もう逃げなくていいんだよ
1人で抱え込まなくていい
千菜が恐れてる事にはならないから
約束する
俺は絶対に死なないし千菜の側に居るから
……だから俺と付き合って」
七瀬奏叶の真っ直ぐな言葉に我慢していた涙腺が緩んでしまった
私は初めて奏叶の前で涙を流した
駄目…今までこらえてたものが溢れ出るみたい
七瀬奏叶に泣いてるなんて気付かれたくない
早く泣き止まなきゃ…
奏叶「千菜…もしかして泣いてる?」
今…声を出したら泣いてるって気付かれちゃう
私は何も言わずに首を横に振った
だけどきっと七瀬奏叶は気付いてる
首を横に振った所で無駄なのは分かってるけど……
奏叶「……そっか
無理矢理抱き締めたりしてごめん
送ってくよ。それくらいはいいでしょ?」
七瀬奏叶はゆっくりと私から離れてはにかんだ笑顔を見せた
奏叶「それからさっきの事だけど…
すぐじゃなくていいから
千菜にも色々あるだろうしゆっくり考えて
俺は千菜の事ずっと待ってるから」
帰り道、私の隣を七瀬奏叶が歩幅を合わせて歩いてる
家までのいつもと変わらない帰り道を何も話さずに歩いてそのまま家に着いた
奏叶「ここが千菜の家?」
私はただ頷いて返した
初めて誰かに家を教えた
ここで…お別れ…
"俺と付き合って"
なんだか七瀬奏叶の顔が見れない
どうして七瀬奏叶は真っ直ぐに想いを伝えられるんだろう
奏叶「…じゃ、また明日」
七瀬奏叶はそれだけ言って帰っていった
家のドアを開ける
いつもと同じ家。何も変わらない
違うのは…私
胸がモヤモヤするようなこの気持ち
私は久しぶりにベッドに横になった
…自分の中で確実に七瀬奏叶の存在が大きくなっていくのが分かる
私…告白されたんだ…
普通の女の子なら絶対嬉しい事なのに
それでもまだ…七瀬奏叶を拒む自分がいる
このまま七瀬奏叶と付き合うのかな…
ふと目を閉じてみた
そういえばあの時も…真琴は似たような事言ってた
私は思い出さないようにしていた過去の記憶をたどった
忘れようとしても消えない過去の記憶…
あれはいつだっただろう…
金木犀の甘い香りと辺りに漂う私の嫌いなお線香の匂い
ただ…お墓の前で静かに手を合わせてこぼれ落ちそうな涙をぐっと我慢して空に消えていく線香の煙をただ眺めていた
「…やっぱりここにいた」
千菜「真琴?なんでここに…」
真琴「家に居なかったからもしかしたらって」
当時付き合っていた真琴
家族が亡くなり1人ぼっちだった私を真琴はずっと支えていてくれた
真琴「俺も線香あげるよ」
私の隣で手を合わせて静かに目を閉じてお参りする真琴の横顔がすごく綺麗で好きだった
真琴「……それで?」
千菜「え?」
真琴「命日でもない日に千菜がここに来るって事は何かあったんだろ?」
千菜「…気づいてたんだ」
真琴「当たり前
どんだけ一緒に居ると思ってんだよ
俺にはちゃんと話せよ
なんの為に一緒に居るんだよ
怖がる事ねぇよ。俺が一緒に居るんだからさ」