君が嫌いで…好きでした


―――…屋上


千菜「…はぁっ…はぁ……」


まだ肌寒い風が通り抜ける
青い空がさっきよりも近く感じる


久しぶりに…こんなに走った…
胸が苦しいのは走ったから…?
それとも…


考えれば考えるほど胸が苦しかった
七瀬奏叶があんな怪我をしたのは私に関わったから


私のせいだ…
今度は大丈夫かもしれない
七瀬奏叶なら…って信じた私が馬鹿だった

罰が当たったんだ…
こんなことになるなら…っ


バンっ…



奏叶「千菜…!!」


勢いよく開けられた屋上の扉



千菜「…ななせ…かなと…?」



なんで追いかけてくるの…!?

ずっとそうだった
どんなに突き放しても笑って真っ直ぐにぶつかってくる
あんな大ケガしていてもまだ…私に関わろうとしてくる

もう…やめてよ…私はもう嫌なの…!


千菜「なんで追いかけてくるの…!?
早く戻って…!さっきも言ったでしょ!
私にもう2度と関わらないで!!」


七瀬奏叶は私なんかと居るよりさっきの人達と居る方が幸せなんだから…!


奏叶「千菜…なんでこんなところ…
まさかと思うけど死ぬ気じゃないよね?」


死……
私は…死ぬ事がどんな事か嫌という程分かってる

こんな思いをするたびに何度…死のうとしたか
それでも辛くても苦しくても…ここまで生きてきたのは…

楓の…お兄ちゃんの言葉があったから…

両親が死んで私達を引き取ってくれた祖父母も死んでしまって…私と楓だけで暮らしている時、私は1度だけ楓に死にたいと言ってしまった事があった



楓「千菜、死んだら終わりなんだ
父さんと母さん、じいちゃん、ばぁちゃんの分まで俺達は生きなきゃいけない

だからどんなに辛い事があっても生きることは諦めちゃ駄目なんだ」



―――…あの時の楓の言葉には少しだけ救われた


だからその後に楓が死んでも、真琴が死んでも…その言葉を思い出しては死にたい気持ちを押し殺して生き続けてきた



千菜「そうだよね…
死んでしまえば…もう2度とこんな気持ちを味あわなくて済むんだよね…」



奏叶「千菜…!?」



千菜「…でも考えた事ある?
死ぬ事がどんな事なのか…

何度…死にたいって考えたか分からない!
死のうと思っても怖くて出来ない!
惨めに生き続ける私の気持ちが…あなたに分かるわけない!」



奏叶「分からないよ
千菜がどんな思いをして今、何を考えてるのか

だけど全部じゃない

千菜は今苦しんでる
そんな千菜をほっとけるわけない
1人には絶対させない」



一歩また一歩…七瀬奏叶は私に近づいてきた


私はそれが怖かった



千菜「来ないで…!誰かをまた失うくらいなら…私はずっと1人でいい!」



奏叶「そんな事させない」



なにこれ……
私…なんで七瀬奏叶に抱き締められてるの?


触れている所から伝わるのは…人の温もり
だけど私は知ってる
この温もりがいつか冷たくなってしまう事を…それがなにより怖い…!



千菜「――離して!これ以上私に関わらないでよ…!」



奏叶「絶対離さない」



何を考えてるの…!?


抱き締められている時間が長いほど私の中で恐怖は増していった


このままじゃ駄目


私はもう大切な人を…
もう2度と大好きな人を…失いたくない…!!



千菜「…離して!!」



私は力一杯に七瀬奏叶を突き飛ばした



…………それがいけなかった





――ガシャンッ…!



押し飛ばされてバランスを崩した七瀬奏叶はフェンスに頭をぶつけてそのまま倒れた……
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