君が嫌いで…好きでした

校舎に授業の始まりのチャイムが鳴り響く

騒がしかった声も消えてシンとした校舎の屋上に私達は居る


私と奏叶の2人だけ…


奏叶「…さっきも言ったけど千菜の気持ちは少しは分かるよ

俺にも冬真(とうま)って弟が居たんだけど…1年前に事故で死んだんだよ

いつも一緒に遊んだりしてさ
喧嘩もしたけどいつの間にか仲直りして…勉強も教えてやったり…


俺にとって大事な家族だったんだよ
なのに…事故にあっちゃってさ
変わり果てた冬馬に会った時はただ…絶望した

そして悔しかった
大事な弟を守ることができなくて…ただ…悔しかった

だから千菜の気持ちは何となくだけど分かるんだ
その心の痛みも…大事な奴が居なくなるその怖さも

俺に比べたら千菜はもっとたくさんのものを無くしてるんだよね
それなのに分かったような事言ってごめん」



……奏叶が弟を亡くしてたなんて知らなかった
奏叶が私みたいに辛い思いをしてるなんて思わなかった

だって…どんな時でも奏叶は笑っていたから


千菜「…奏叶はなんで…私にそこまで執着するの?
…どうして私を好きだと言ったの…?」


私を好きになる理由なんてない…
噂のせいでいつも教室の隅に1人で居た私を…どうして見つけたの?


奏叶「…冬馬が死んだのは俺が1年の時だったんだ
大事な家族を無くせばそれなりに落ち込む…
周りの奴等はそんな俺を見て可哀想だったね、でも大丈夫だよって笑って声をかけてきた

周りの奴等は俺を励まそうとしたんだろうけど内心ムカついた

可哀想ってなんだよ…冬馬の気持ちがお前等に分かるのかよ
大丈夫って何が大丈夫なんだよ…
なんで笑ってそんな事言えるんだよって…

そしたらさたまたま廊下を歩いてた女の子がさ周りの奴等に言ったんだよ

"可哀想なんかじゃない
一生懸命生きた事を馬鹿にしないで
居なくなった人の気持ちも残された人の気持ちも何も知らない癖に笑ってそんな事言わないで"って…

覚えてない?
それが千菜だったんだよ…」


千菜「…え…?」


奏叶「やっぱり覚えてないか…
いきなり現れてそんな事を言うなんて…誰だろうって思ったけど
なんだか…心がホッとしたような感覚だった

そして目が会った時千菜は俺に言ったんだよ

"辛いよね
でも一緒に居た時間や思い出は無くならない。きっとあなたもその人も幸せだったんだね"って…」

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