かごの中の鳥は

足が重い。
息も苦しくなってきた。
どのくらい走っただろうか。
前方に微かに光が見えた。
(出口だ)
一葉はその光に向かって走っていった。
(出口だ。もう俺は自由だ。2度とあんなところに戻るものか)
『外』に出られるうれしさに足の痛みも忘れ、無我夢中で走った。
仕事なんてどうにでもなる。
『外』にさえ出られれば今はそれでいい。
やっとの思いで出た森の外は――。

「ご…主人様。なんで…」
「その続きさ何でオレがここにいるのか?それとも何で町に出られなかったのか?」
そこは屋敷だった。
逃げ出したはずの斎賀の屋敷に戻ってきてしまったのだ。
そして目の前には妖艶な笑みを浮かべるご主人様が立っていた。
「一葉。お前は森を追っ手から逃れるために無我夢中で町の方へ走っていたようだが、周到な追っ手の罠にまんまと嵌まり森を1周して屋敷に戻るように誘導されていたのさ」
「そんな…」
「ねぇ一葉。オレは前にも言ったよな?お前が逃げ出したらオレは何をするかわからないって」
そう言いながら一歩、また一歩と一葉に近づいてくる。
「これでわかっただろう?オレからは逃れらやしない。お前は必ずオレの元に帰ってくるようになっているんだ。オレなしでは生きてはいけないのだから」
一葉の前にピタリと止まり、頬に触れる。
ご主人様の手のあまりの冷たさに一葉はビクンッと反応した。
そして耳元に口を近づけ囁く。
「もうお前はオレなしでは生きられないんだ。ここからは一生出られない」
呪文のように紡がれるその言葉に一葉は何も言えない。
だが一葉はわかっていた。
ここから逃げることなどできないことを。
ご主人様から離れ、普通の生活などできないことを。
もうご主人様なしの生活など考えられない。



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