かごの中の鳥は
「一葉はオレに従順だな。他の者も一葉のように従順なら楽なのだが」
ご主人様がある日、一葉にこんなことを言った。
一葉はご主人様に言われ、他の者は従順ではないのかと疑問に思い訊ねた。
「極たまにここを出ようとする者がいる。だからお仕置きしなければならない」
少し口元を緩めながらそう答えたご主人様の腕の中で思う。
受け入れてしまえばここよりいい仕事などないのに。
何不自由のない生活が約束されているのだから。
「一葉はオレの元から逃げ出すなんてことはしないだろう?オレのお気に入りの一葉が逃げたとあらば、オレは何をするかわからない」
ご主人様の漆黒の真っ直ぐな瞳に射られ、一葉の言葉は決まっていた。
「もちろんです。ご主人様。俺はご主人様を裏切ったりしません」
一葉の言葉を聞いて満足したのか、一葉の髪に唇を寄せ眠ってしまった。
何度、ご主人様の寝顔を見たことだろう。
決して不細工ではない。むしろ整った顔。
20歳を少し過ぎたばかりのまだ幼さの欠片を残すその顔からは想像できないような所業。
一葉は初めての夜、ご主人様の行為が理解できなかった。悪ふざけ、もしくは雇ってみたものの気に入らずこんな行為に出たのだと、そう思った。
しかし、ご主人様にお前はこのために雇ったのだと言われた時、全て理解できた。
応募資格には身寄りのない未成年者優遇、そう書かれていた。
それは町に戻らなくてもいいもの、ここでどういう扱いを受けても気にする身内がいない者を雇うため。
自分の好きにするために。


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