刀華
---やはり、彦四郎などわしの敵ではない---

 落胆にも似た思いが、鬼一郎の心に湧き上がる。

 力の差は歴然だ。
 なのに何故、わざわざ立ち合いをさせるのか。

 ……なぜむざむざ、彦四郎を死なすのか。

 同じようなことを、前夜彦四郎が師に訊ねたことを、鬼一郎は知らない。

「彦四郎! 覚悟!!」

 肚を決め、鬼一郎は間合いを詰め様、刀を突き出した。
 振りかぶったほうが力が加わるが、そうすると一瞬空いた胴を狙われる恐れがあるのだ。

 突きであれば、構えのままだ。
 おまけに小柄な彦四郎とは、腕の長さも違う。
 彦四郎が刀を抜いても、鬼一郎の突きのほうが、先に彦四郎に届くのだ。

 鬼一郎の刀が、彦四郎に迫る。
 彦四郎は素早く地を蹴り様、身体を沈めた。
 地面すれすれに低くなりながら抜刀する。

「!!」

 鬼一郎の顔が歪んだ。

「……き、貴様っ」

 初めて、彦四郎の顔に笑みが浮かんだ。
 鬼一郎の足の指が、数本飛んでいた。
 飛び退り様に、彦四郎の刀は鬼一郎の足の指を飛ばしていたのだ。
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