小さなキミと
今日は金曜日。


前期期末考査まで1週間を切っていたので、部活動はお休みだ。

終礼が終わった教室は、生徒たちの賑やかな声で溢れていた。


「剛、これありがと。明日返すわ」


あっという間に帰り支度を整えた八神が、さっきあたしが渡した紙袋を持ち上げてニカッと笑った。


「えー、別にそんな急がなくていいって」


そう言ったあたしに答えるでもなく、「じゃーな」と手を振って、颯爽と教室を出て行った大男、八神。

足が長いので、彼は歩くのがすごく早い。


「相変わらず、はえーなぁ八神……」


1人で感心していると、あたしの席へ近づく結と日向が目に映った。


「ねぇ、八神くんになにを貸したの?」


「CD。カナダのなんとかっていうバンドのやつ」


結の質問に答えながら、あたしはカバンに教科書を詰めていく。


「なんとかって。貸したのに知らないんだ」


「だってアレ、弟のだもん」


あたしがそう言うと、日向は「へぇ……」と苦笑いした。

おそらく、あたしが勝手に持ち出してきたことを悟ったんだろう。


「っていうか涼香さぁ、最近八神くんと仲良いよねぇ?」


茶化すような結の喋り方に、あたしはピタリと手を止める。


「あのね、結。分かってると思うけど」


「もっちろん。八神くんはそんなんじゃないんだよね。
そこで提案なんだけど、もう来週から期末テストじゃん?
この土日、みんなで一緒に勉強会しない?」


思いっきり話を変えた結の瞳は、なぜかキラキラと輝いていた。

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