小さなキミと





日付が変わって、土曜日の朝がやって来た。

今日は学校はお休みだ。



「え、涼香なにその格好……」


待ち合わせ場所の公園で、約束の時間に少し遅れて登場したあたしを見るなり、結は大げさに顔を引きつらせた。


「そんなに変かなぁ。別にフツーじゃない?」


改めて自分の姿を見下ろしてみるけれど、特に咎められる理由は見当たらない。


上は、白地で胸元に“HOLIDAY”という面白味のない英単語がプリントされた、至ってシンプルな半そでTシャツ。

下は、動くとシャカシャカ音が鳴る、紺色の長ジャージ。


「いや、変とかフツーとかじゃなくて。
好きな男子に、私服を初披露するってのに……それはないわ」


結は心底呆れた顔をして、隣の長身葉山くんに「ねぇ?」と同意を求める。


「あー、まぁでも、気合入れすぎるよりはいいんじゃない? どっかに出かけるワケじゃないし」


葉山くんは結に同調しつつ、あたしをけなすでもない無難で模範的な意見を、爽やかに述べた。


「そう、そうなの葉山くん。名目は勉強会でしょ?
なのに気合入れてお洒落してったらさ、服部にバカだと思われるかなって」


「寝巻で外をうろつく方がバカじゃん」


すかさず、結の冷ややかなツッコミが入った。


「寝巻じゃないからっ。それは別で、この中にあるからっ」


身体をひねって、背中のリュックを2人に見せる。

実際のところ、服を悩みすぎてこの格好に逃げただけなんだけど、それは言わないでおいた。


「涼香、荷物ってそれだけ? ちゃんと教科書とかも持ってきてる?」


そう言う結の手には、彼女の自転車のハンドルが握られている。


中には入りきらなかったようで、パンパンに膨らんだ大きなボストンバックが、そのカゴからはみ出ていた。

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