小さなキミと
葉山くんの家の駐車場に自転車を停めさせてもらって、いつになく浮かれた様子の結とともに、家の中へお邪魔した。


玄関を入ってすぐに、うちとはまた違う、香ばしい木の匂いが鼻をくすぐる。

人の家というのは、何もかもが新鮮だ。



1階のリビングで、葉山くんのご両親と軽く挨拶を交わす。

結は葉山くんのお母さんと面識があるようで、やけに親しげだった。


「奏也はもう来てるから」


階段を上りながら言ったそれは、あたしに向けられた言葉らしい。

ちゃんと心構えをさせてくれるところが、葉山くんの素晴らしいところだ。


ふうーっ、と深呼吸を繰り返す。


そのときふと、今さらだけど1番に気にするべき重大な疑問が頭に浮かんだ。


服部は、あたしたちが来ることを知っているんだろうか。


あれ、ちょっと待てよ。服部って、未だに女子苦手じゃん。


あたしはともかく、結と日向と同じ部屋でお勉強、なんて大丈夫なの?


次から次へと疑問の芽が出て膨らんで、焦りと不安が募る。


どうしてあたしは、ここへ来るまでそのことを1度も疑問に思わなかったんだろう。


普通に考えて、おかしいよね。


もしかしてもしかすると、服部は……



あたしの嫌な予感は、この後、見事的中することになる。



「奏也、ただいまーっ」


「おっせえぞ、今までなにして」


葉山くんに続いて部屋に入って来た結とあたしを一目見るなり、服部の言葉は切れた。


ゴロンとうつぶせにベッドに寝っ転がった状態で、手元には開いた状態の漫画雑誌。

服装は、あたしと似たり寄ったりの部屋着だった。


完全にオフモードの、彼のその姿にキュンとしているあたしは変態なのだろうか。

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