小さなキミと
「服部、日向はいい子だよ? 服部の苦手な“女子”とは違うよ?」


あたしは部屋を物色する結をチラチラ見つつ、後片付けに勤しむ服部に小声で耳打ちした。


ピクッ、と服部の肩がわずかに跳ねる。


「結もそうだし、自分で言うけどあたしも相当いい子だよ。
陰で誰かのえげつない悪口とか、あたし1回も言ったことないよ。
そんでもって超優しいし、超気が利くし、超……健気だしっ」


最後の“健気”は、正直適当だ。

こんなことを自分で言うのは恥ずかしいけれど、服部はすぐにウケ狙いの冗談だと気付くはず。


引き留めるにはまず笑いを取らなければ、と思っての発言だった。


ところが。


「……知ってる」


ポツリと発せられた、服部のその返事には思わず我が耳を疑った。


驚いて目を丸くしているあたしには構うことなく、下を向いてせっせと筆記用具をまとめる服部。


その横顔に垂れ下がる前髪が邪魔で、彼の表情は読めない。


「世良たちもう、すぐそこまで来てるみたいだわ。
ちょっと迎えに行ってくるから……っていうか結、あんまじっくり見ないでくれる?」


若干焦った様子の葉山くんの声と、「なにか見られて困るものでもあるワケ?」という結の楽しげな声が、どこか遠くで聞こえたような気がした。


「いや別に……なんか心配だから結も来て。
あ、剛さんはその辺で適当にくつろいでくれていいからね」


「えぇー、あたしもくつろぎたいよー」


「結はダメ」


そんな会話が飛び交う中、あたしは未だ服部から目を離せずにいた。

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