小さなキミと
「嘘じゃないし、本当だし。ねぇ、時間やばいから乗っけてってよ。もうあたし後ろでいいから」


むしゃくしゃしながら言ったあたしは、胸ポケットのケータイに片手を伸ばす。


もちろん、もう一方はしっかりと荷台を握りしめたままだ。


画面に表示された時間は、“AM10:08”。
彼との不運な出会いのせいで、5分以上もロスしてしまっていた。


なんとかしてコイツを説き伏せないと。一刻も早く。


「言っとくけど、あたしそんなくだらない嘘つかないから。右足に体重かけるとすっごい痛いんだからね?」


あたしが早口でそう言うと、彼はたちまち眉間にしわを寄せた。


ダメだ、こんなウザったい言い方をしたら逆効果だった。

ここは低姿勢になろう。


「あたしね、今日高校の入学式なんだ。欠席は絶対したくない。だけどチャリはぶっ壊れるし足はこんなだから、キミに頼るしかないの。後でお礼でもなんでもするから。本当にお願い」


彼はうさん臭そうな目であたしを見て、うーん、と唸(うな)った。


もうひと押しだ!

あたしはプライドを捨てて頭を下げる。


「……分かった、信じるよ」


程なくして、ため息が混ざったような声が頭上で聞こえた。

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