小さなキミと
脱力した人間の重量感は半端じゃなかった。


オレは体力筋力にはかなり自信がある。

だけど、意識のない人間を抱えて立ち上がるというのは、想像以上に過酷だった。


しかもやっとの思いで立ち上がった瞬間、剛が目を覚ましてしまったのだ。

骨折り損とはまさにこのこと。


せっかく苦労して持ち上げたのに、まさかこのタイミングで起きるとは。


すぐに下ろせばいいものを、面食らって固まったせいで、オレは剛とバッチリ目が合ってしまった。


「ん……あれ、はっとり?」


ゆっくり目を開きながら顔を起こした剛は、そんなかすれた声を出した。

まだ意識がはっきりしないのか、そいつは薄目でボンヤリとオレを見つめている。


いつもの強気の剛とは全く違う顔だった。


剛の目はやたらと潤(うる)んでいて、何だか色っぽい雰囲気をまとっていた。


違う、やめろダメだ!


慌ててパッと顔を背け、落ち着けと自分に言い聞かせる。


だけど気持ちとは裏腹に、心臓が尋常じゃないくらいの速さで胸を突いている。


中で小人が暴れ回っているんじゃないかって思うくらいだ。


急に部屋が暑くなった気がする。


やめろ、落ち着けマジでヤバい。


本当にシャレになんないから。


必死に平静を呼び起こすも、一度意識してしまったらもう止まらない。


柔らかいそいつの身体が密着していることとか、とてつもなく顔が近いこととか、そいつの吐息がオレの首筋にかかっていることとか、


もう色々と一気に意識が向かう。

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