小さなキミと





とても幸せな夢を見た。


なんだかものすっごく良い夢だった気がするんだけど、肝心のそれが思い出せない。


なんだったっけと呑気に記憶を呼び覚まそうとしたとき、あたしの頭の中で緊急事態の警報ベルが作動した。


口の中にほのかに残る、なにか塩っ気の強い食べ物の味。


ぐしゃっと崩れて絡まりまくりのポニーテール。


汗と脂で少しべたつく全身。


そして、真っ暗なこの部屋。


「うわ! またやっちゃった!」


独りで騒いだあたしは、鉛のように重たい身体を無理やり起こした。


風呂や歯磨きを忘れて眠りこけ、気づいたら朝だった、なんてことが最近のあたしにはよくある。

今日もそれをやってしまったと思ったのだ。


そう考えると、今日は夜中に起きられてラッキーだ。


ゆっくり風呂に入れるし、それから寝ることだってできるから。


朝なんかは時間も気力もないから、なってしまった際には本当にげんなりする。


まぁ自業自得なんだけど。



空っぽのあたしのお腹から、可哀想な音が鳴った。


腹減ったなぁ……


でもこういうときは夜ご飯なしなんだよね。

太るから。



真っ暗で何も見えないけれど、慣れ親しんだ自分の部屋の構造くらい把握している。


あたしは迷うことなくドアを目指して歩を進め、

ガツンと思い切り右脛(みぎずね)をぶつけた。


地味な痛みが結構こたえる。


「いってぇーーーー」


すぐにうずくまって脛をさすった。


あまりに痛くて涙が出そうだった。


畜生!


誰だ、こんなとこに固い障害物置いたのは!

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