小さなキミと
彼が顔を出しているのは、ベランダのない小さな窓。


たぶん、一番端っこの部屋の窓だと思う。


今あたしが立っているベランダの端っこからは、割と距離が近く感じる。

だけど間には谷底のような高さを隔てた空間があり、やっぱり遠いような気もするのだった。


真っ暗な闇の中、月の明かりに照らされた服部の顔が見える。


お世辞抜きに、すごく綺麗だと思った。


いつもと雰囲気が違ってみえるのは、服部がメガネをかけているからだろうか。


それとも、このシチュエーションのせいだろうか。


あたしが掴んでいる黒いベランダの柵の向こうに服部の家があって、窓から服部がこっちを見ている。


それだけのことなんだけど、胸が締め付けられて泣きたくなった。


はぁ……

やっぱり、好き。


どうしようもないくらい、服部のことが好きだ。


めっちゃ好き。大好きだよ。


この気持ちを伝えたい、知ってほしい。


だけど────知ったら服部はどう思うだろう。


気まずくなって、話せなくなる未来しか想像できない。


この思考はダメだ、悲しくなってくる。


取りあえず世間話で気持ちを切り替えよう。


「ねぇ、なんかこの辺って、すっごい静かじゃない?
あたしんちなんか大通りに面してるからさ、夜中でもすっごいうるさい時あるんだよね」


「……へぇ」


そう言葉を発すると同時に、服部はこちらへ向けていた顔を正面へと戻してしまった。


どうやらあたしを視界の外へ追い出したらしい。


同じ方角に向いた窓だから、あたしは服部の横顔しか見えなくなった。


あたしんちのご近所事情には感心なしですか。


まぁ、別にいいけどさ。

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