小さなキミと
「声でけーよッ」


ギョッとした顔で小さく叫んだ服部は、キョロキョロと辺りを覗う仕草をした。


「ごめんごめん、つい大声が」


声を押さえて謝ったあたしを、服部はチラッと見やったかと思えば、また顔を正面に戻してしまった。


俯き気味のその横顔にかかった前髪のせいで、表情が見えない。


だけど一瞬だけ見えた彼の顔は、やっぱり怒っているようだった。


とりあえず、謝った方がいいよね。


「あの、服部……ごめん」


何に対しての“ごめん”なのか覚えてないんだけど、と心の中でこっそり付け足す。


そして……


しばし、沈黙が流れた。


窓の手すりにヒジを乗せた服部は、俯いたまま黙り込んでいた。


こ、これはマジだ。マジのヤツだ。


ワーワー怒鳴ったり罵倒したりしないなんて、逆に怖いんですけど。


想像していた以上に、あたしは深刻でシャレにならないことをしでかしてしまったらしい。


「……なんで謝んの」


少しして、服部が抑揚のない声でボソリとつぶやいた。


「え、えーっと、あのー、何と言うか。
大変申し訳ないことを、そのー、しちゃったなぁと。反省してまして……」


顔の見えない服部は、それはそれは恐ろしくて、タジタジになってしまった。


「あ、あたしに出来ることなら何でもするし、もう気が済むまでこき使ってくれていいからっ」


あたしが言葉を発するたびに、ピクリと服部の肩が揺れるけど、何か喋ってくれる気配がない。


黙らないでよ、怖いんだってば!


お願いだからなんか喋って!

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