小さなキミと
「あ、そうだった」


苦笑して言ったあたしに、八神はズイッと日焼けした顔を寄せてきた。


「今さら無しとか言うなよ? 勝負は勝負だから」


八神の目力に圧倒されて、思わず身を引いてしまう。

色黒の八神は、目の白さが普通の人より際立つのだ。


「でも八神が頭いいとか知らなかったし、あたしだってもっと勉強するつもりだったし」


色々と言い訳を並べるけれど、「で?」と八神に返されてしまって、あたしは何も言えなくなった。




期末テストの合計点を勝負しようと八神に持ち掛けられたのは、テストの約2週間前のことだった。


負けた方は、勝った方に何かを奢るという罰ゲーム付き。


八神の実力を知らず、テストまでまだ日にちもあって、あたしは軽い気持ちでその勝負に乗ってしまったのだ。


一番最初に返却された八神の数Ⅰの答案用紙を見て、思いっきり青ざめたのを覚えている。


ヤツは赤点がどうのこうのっていうレベルではなかった。




「八神さぁ。今の時点で、合計何点なの?」


恐る恐る質問してみると、八神は軽い調子で素晴らしい点数を教えてくれた。


開いた口が塞がらない、とはまさに今のあたしのことだ。


悔しいっていうか、なんかもうビックリ。

放心状態だわ。


「……ライティングで100点取ったとしても、あたし八神に勝てないよ」


「だろうね。あれだけ赤点あったら」


八神はニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべていた。

悔しいけど、言い返せない。


「罰ゲームは、常識の範囲内で頼むわ……」


お財布の残高を思い浮かべながらため息混じりに言ったあたしに、プッと噴き出した八神。


「それなんだけど、やっぱり奢りは無しにしない?
オレのお願い、ひとつ聞いてよ」


げっ、そうきたか。


軽く身構えたあたしを面白がるかのように、ニヤニヤしながら八神は言葉を続けた。



「オレのこと、名前で呼んで?」

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