小さなキミと





その日のお昼休み。


例によって、結と日向が弁当を持ってあたしの席へとやって来た。


なぜあたしの席に集まるのかというと、前の席の八神がいつも昼休みに教室にいないからだ。


机とイスを借りられるので、席替えをしてからは、お昼はここが定位置になっている。


夏場に窓際の前から3番目という位置なのが、日差しがきつくてちょっと残念。


クーラーが効いてて快適だしカーテンもあるから、それくらい我慢できるけどね。




もうとっくに机の上を空けていたあたしは、イスから立ち上がって、八神が退くのを待った。


「八神まだぁー?」


いつもはサッサと退いてくれるのに、今日の八神はやたらとノロノロしている気がする。


そう思って急かすように声をかけた。


すると八神は身体を後ろに向け、「違うでしょ?」と言ってニヤリと笑う。


その顔を見てあたしは確信した。



コノヤロー、あの罰ゲームをやらせるために、わざとノロノロしてたんだな?


まったくもー、必要以上に名前を呼ばせようとして。


さっき1回試しに呼んだとき、思いっきり噴き出したくせに。


もー、ニヤニヤしやがってー。


性格悪いなコイツ。


名前で呼ぶまで退かないつもりか?


でも結たちも待ってるし、ここは腹をくくって……



「……ゆうっ」


思い切って、名前を呼んでみる。


男子を名前呼びにするなんて、あたしにとっては小学校以来だ。


なんか照れるんだけど。


「っていうかさぁ、や、じゃなくて有(ゆう)がそう呼べって言ったくせに固まんないでよっ」


バシンと、八神 有の頭を力いっぱい叩く。


せめて笑うなりしてほしい。


そんな、ビックリしたような顔をされると非常に困る。

< 139 / 276 >

この作品をシェア

pagetop