小さなキミと
「いてッ」と声を上げて頭を抱え込んだ彼は、そのまま動かなくなってしまった。


そんなに痛かった……?


「あの、ごめ」


あたしが言い終わる前に、八神 有は勢いよく立ち上がった。


まるで目の前に巨大な壁が出現したような迫力である。


なんだよ元気じゃん、紛らわしいな。


あたしを軽々と見下ろす192㎝の彼の顔には、意味深な微笑が浮かんでいた。


もしかして、照れてる?


いや無いな。や、じゃなくて有に限ってそれは無い。


どうせ笑いを堪えてるんでしょ。


バカにされてる気がして、なんか癪(しゃく)だ。


そんなことを思って勝手にふてくされていた時、有がふいに手を伸ばしてくるのが見え、あたしはとっさに目を瞑った。


仕返しされる……!


痛みが走るのを覚悟したあたしだったけど、有はそんなことしなかった。


何かが、あたしの頭に軽く触れた。


ポンポン、と2回。


えっ、今のなに!?


驚いて目を開けたあたしに、有はさらにビックリな一言をつぶやいた。


「さっきの、ちょっと可愛かった」


「ぅえっ?」


思わずヘンテコな声が出る。


八神って……有って、そんなこと言うキャラでしたっけ?


「じゃあ行くわ。机汚すなよ、“リョーカ”」


……ハァ!?


なんであなたまで名前で呼ぶワケ?


あんぐりと口を開けたあたしを見た有は、ニッと満足げに笑って教室を出て行った。

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