小さなキミと





時刻は夜の8時。


父親は仕事でまだ当分帰って来ないので、オレはいつものように兄と夕食を先に済ませていた。


オレが自分の部屋に戻ってしばらくしてから、当然のようにここへ入って来たのは圭だった。


「うーわ相変わらず散らかってんなぁ」


言いながら好き勝手に部屋を眺め回し、ヤツは床に散乱する衣類を押しのけ腰を下ろす。


ノックも無しにオレの部屋を訪ねてくるというコイツのスタイルは、もはや恒例だった。


オレと圭は家族ぐるみの付き合いで、別に用が無くても好きなときにお互いの家を行ったり来たりする。


それ自体は珍しいことではない。


たとえオレがいなくたって、圭が勝手にオレの家に上がり込んでたりすることもある。


逆もしかりだ。


ただ、今日はちょっと虫の居所が悪い。


「文句あんなら帰れ」


部屋を揶揄(やゆ)されただけだというのに、思いのほか刺々しい口調になった。


一瞬キョトンとした圭は、ベッドの上で寝っ転がるオレをじっくり眺め、「あぁ」となぜか納得したような顔をした。


「イライラするのは分かるけどさ、人に当たるのはやめようね」


「別にイライラなんかしてねーよッ!」


即座に起き上がってかみつくも、圭は呆れたように笑うだけだった。


その態度がまた気に入らなくて、だけどイライラしているのは事実なので余計に頭に血が上る。


「クソッ、このっ、適当なこと言いやがって……」


風呂上がりらしい圭は、持参の白いタオルでわしゃわしゃと乱暴に髪を拭き始める。


オレの言うことなんか、もはや聞いちゃいない。

< 141 / 276 >

この作品をシェア

pagetop