小さなキミと
「もしかして寝ぼけて好きなヤツと間違えたんじゃねーのとか思ったら、何かもう、そうとしか思えなくなって」


これは、剛が好きな男子の存在を明かした時に真っ先に思ったことだった。


「んでアイツ、最近八神と仲いいじゃん。
背ぇ高くて筋肉モリモリだっけ、そんで色黒。アイツが言ってた理想にぴったりなんだよなぁ」


それらを含む数々の理想を聞いた時、あまりにもアホらしくて腹を抱えて笑ったのを思い出す。


「アイツらのことさぁ、クラスのヤツら、お似合いだとか勝手に言ってるよなぁ。
どっちも背ぇ高いから、そりゃオレだって」


そう思う。


それを言わずに飲み込んだのは、認めたくないと言っているようなものだった。


「最近オレさぁ、気づいたら、アイツのこと見てんのな。ほら、オレのが席後ろだし。
そんで分かったんだけど、見てんのオレだけじゃないんだよなぁ」


オレはズズッと鼻をすすった。


突然ワケの分からない感情がこみ上げて、目頭が熱くなった。


「八神の他に、男子でコイツ確実だなってのが何人かいてさぁ。
アイツ目立つし、結構人気あんだなーって。今さらだけど」


認めたくないけれど、オレは今にも泣きそうだった。


自分でも全く理由が分からなかった。


全然悲しくないのに、なんで。


疑問はひとまず置いておき、必死に平静を呼び起こしつつ言葉を続ける。


「アイツがアレを覚えてないって聞いた瞬間、ぶっちゃけすっげーホッとしたんだ、オレ。
それだったら今まで通りじゃん、つって」


言い終わると同時に目尻から水が一筋、真横に流れた。


気づいて大いに焦ったオレだけど、背中を向けているので圭にはバレていない、と思いなおす。


オレはこっそり、溢れたそれを手の甲で拭った。

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