小さなキミと
「でも会話ん中の何かのキッカケで、剛に好きなヤツとか彼氏とかいるのか無性に気になって。
つーか聞いてどうしたかったんだろオレバカじゃねーの」


思い返すのはあの日の夜。


剛のせいで、どうにも寝れない夜だった。


そんな時、外から変な歌が聞こえて。


直感で剛だと思って、外に出たら本当に剛がいた。


「そこまで訊いたなら、好きなヤツが誰なのかも訊いとけばよかったんだ。
急に怖気づいてバカみたいに興味ない風の芝居して、本物のバカだなオレは」


バカだバカだと自分をけなして、オレは一体何が言いたいんだ。


終着地点を完全に見失った。


途方に暮れ、取りあえず喋ることを放棄した。


泣いたのなんていつぶりだろう、と全然関係ない事柄の過去の記憶をたどってみる。


オレは卒業式で泣くような柄じゃないし。


中学の部活の試合で負けた時だって、泣くほど惜しいところまで行かなかったし。


部活で骨折した時は泣かなかったはず。


小5んとき担任にすっげー怒られたことがあったけれど、泣いたんだっけ。


それはちょっと思い出せなかった。


小3で、給食の配膳台の角にぶつけて頭切った時は……思い切り泣いたな、きっとあれが最後だ。


スッキリしたところで思考を現在に戻し、ベッドから起き上がって圭の隣にドスッと腰を下ろす。


ようやく平静が戻ってきたので、もう涙も出ないだろう。


「オレ、今だいぶビックリしてる……」


久々に言葉を発した圭に、


「うん。オレもビックリしてる」


オレはそう返事をした。


まさか自分がこの手の話題でこんなに喋ってしまうとは思ってもみなかった。


きっと誰かに聞いてほしかったんだと思う。


その証拠に、今までにないほど気分が晴れやかだった。

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