小さなキミと
「突然デカい声だしてんじゃねーよバカヤロー芯折れたッ」


理不尽なクレーマーのように喚いた彼の手には、分厚い“英文法・語法問題集”が収まっている。


痛みの正体を瞬時に理解したあたしは、彼の怒りの理由を聞くことよりも自分の怒りをぶつけることを優先させた。


「痛いッ
叩くことないじゃん暴力反対ッ」


言うと同時に手近な参考書を服部の頭めがけて振り下ろす。


バシンッと鈍い音が教室に響いた。


まあ響くと言っても高が知れていて、教師不在の自習中の教室内ではそれほど目立ちはしない。


つまり、教室は荒れ放題だった。


席順はしっちゃかめっちゃかで、気の合うもの同士が近くに座れるように席をトレードし合い、合体したお調子者たちのグループが騒音を盛り立てる。


子ども以上大人未満の高校生にとって、教師不在とはそういうことなのだった。


これが終われば帰宅できる、という解放感も少なからず手伝っている。


おそらく何かの手違いで、本日の1年1組4時限目の授業は、奇跡的にこのような有様になっていた。


しっかり者の級長は、まるで図ったかのように病欠。


浮かれるクラスメイトたちだが、もちろんあたしだって例外ではない。


たったの1時間でも、結や日向とお喋りする時間が増えるのは嬉しい。


いくらあっても足りないぐらいだ。


そんな騒がしいこの空間で、生真面目に机に向かう服部は明らかに少数派だった。

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